麻布中 24年 社会より
麻布中はかつて勤めていた塾で対策授業を担当していました。
問題自体がとても考えさせられるものです。
個人的にはとても好きな問題です。
毎年、どんな問題が出題されたのか見るのが楽しみな学校でもあります。
問題
① 教育基本法ではすべての子どもへの教育が保障されているわけではないという意見があります。たとえば下の文は制定当時の教育基本法第 10条の一部です。この条文にある「国民全体」という語は、GHQによる原案では「全人民(the wholepeople)」と書かれていました。これは「日本に住むすべての人びと」を意味します。それを日本政府があえて「国民全体」としたことで、どのような問題が生じたと考えられますか。説明しなさい。
第10条 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。
② 何かを知りたいときに、自ら本で調べたりインターネットで検索したりすればたいていのことはわかります。それでも学校で学ぶことは大切だと考えられています。それは学校で知識が提供されるときに、どのような配慮がなされているからでしょうか。説明しなさい。
③ 本文にあるように、学校教育は社会の求めによって、大きな影響を受けてきました。他方で、学校教育も人びとの価値観や考え方に大きな影響をあたえてきました。学校教育は人びとの価値観や考え方に影響をあたえることで、どのような社会をつくってきましたか。そして、そのような人びとによってつくられた社会にはどのような問題がありますか。あわせて100字以上120字以内で説明しなさい。ただし、旬読点を1字分とします。
※ 本文は省略しました。他にも改題した部分があります。
解説
①について
主に考え方・解き方を述べていきます。
Soleadoで指導するときにどのようなことを指導するのかをご覧ください。
まず、この問題は「国民全体」と「全人民」の違いを考えることから始めます。
「全人民」は「日本に住むすべての人々」という意味だと書いてあります。
それでは、「国民全体」はどのような意味でしょうか。
POINTは「国民」です。つまり、日本国民でないといけないということです。
さて、問われているのはどんな問題が生じたか、です。
つまり、日本の教育が日本国民以外保証されないとどんな問題が生じたか、です。
これを説明するのに、
「日本国民以外に教育が保証されな買ったこと。」
と書いては、何のことかわからなくなってしまいます。
具体例を示すことでわかりやすくなるでしょう。
日本にいる日本国民以外の人。
そして問題になるのですから、教育を受けられない可能性がある人です。
まず、日本にいる日本国民以外の人はどんな人がいるでしょうか。
まず、GHQの軍人。そして、日本にいる外国人(特に中国・韓国の人でしょうか)。
ここまでは簡単に思いつきます。
もちろん、ここまで思いつけば回答をすることはできます。
その上でもう一つ。沖縄の人。
そして、教育を受けられないとなったときに問題が起こるのは
日本にいる外国人と沖縄の人でしょう。
日本にいる外国人が強制的に連れてこられたかどうかはともかく、
戦争の時代の中で日本に来ることになり、
終戦後帰れなくなったという人はいるでしょう。
彼らは日本で生活せざるを得ない状態にあるのに
教育を保証されないとなると問題が起こります。
沖縄の人たちも、
突然アメリカ軍の支配下に置かれ、
しかも教育を保証されないとなると
大きな問題になります。
このあたりを書けばいいのではないでしょうか。
(解答例1)
国民全体とすることで、戦争中に日本に来て戦後帰国できなくなった中国や韓国の人々が対象にならなくなる。これによって彼らの子どもが教育を保証されないという問題が起こった。
(解答例2)
国民全体とすることで、アメリカ軍政下に置かれた沖縄の人びとが対象にならなくなる。これによって、彼らの子どもが教育を保証されなくなるという問題が起こる。
②について
これは「比べる」ということが必要です。
インターネットで知識を得る学びと学校で知識を得る学びを比べましょう。
比べるとは何をすればいいのでしょうか。
社会では「同じところは何か」「違うところは何か」を考えることです。
インターネットで知識を得る学びは
・ 新しいことを知ることができる
・ 手軽に調べることができる
・ 何でも調べることができる
・ 自分から調べにいかなくてはいけない
・ 間違った情報が入っている可能性がある
学校で知識を得る学びは
・ 新しいことを知ることができる
・ 学ぶ内容が決められている
・ 学ぶ内容は学年ごとにわかりやすく順番が決められている
・ 国が決めた内容を学ぶ(間違えた情報はない)
以上の点から「違う点」を探して、回答を作ればいいと思います。
(解答例1)
学校で提供される知識は国が定め、チェックした内容なので間違えた内容はない。インターネットの不正確な情報が混ざっているのとこの点が違う。このように提供される知識の質が配慮されている。
(解答例2)
学校で提供される知識は子どもの成長段階に応じてわかりやすく、学ぶ順序も決められている。インターネットでは好きなことを調べられるが、その代わり自分の成長段階とあっていない場合や前提となる知識を学んでいない場合がある。このように学校では子どもが知識を理解しやすいように配慮されている。
③について
何を考えればいいのかを考えます。
「学校教育が人々の価値観や考え方に与えた影響」を考え、「その結果作られた社会の問題点」を考えます。
まず、学校教育が人々の価値観や考え方に与えた影響ですが、学校教育法が問題に出ているので、
現代の教育と考えます。
すると、昔の教育との比較をすればいいとわかります。
これも「比べる」ですね。
違う点を書き出します。
昔の教育 = 忠君愛国(個人より国を大切にする)、長幼の序を重視する、男女を区別し男性優位
今の教育 = 個人を大切にする、みんな同じ教育内容、男女平等
ここから考えてみましょう。
個人を大切にする世の中の問題点。
これ、難しいですね。
個人を大切にする教育を個人主義ということにしましょう。
個人主義は個人の幸せを求めますから、他の人に対する優しさがなくなるかもしれません。
自分さえ良ければ、という社会になる可能性があるということですね。
これは競争が激しくなるということかもしれませんし、格差が広がるということかもしれません。
皆が同じ教育を受けるということは、皆が同じになっていくということです。
その結果、異なる人を排除することにつながるかもしれません。
そのようなことを書いてはどうでしょうか。
(解答例1)
現在の学校教育は個人を大切にする教育を進めている。その結果、戦前のような国を優先して個人を犠牲にするような考え方は無くなったが、個人を大切にすることは競争が激しくなることにつながった。また、個人の成功を優先する人が出てきた結果格差が拡大した。このような問題点が見られるようになったと言える。
(解答例2)
現在の学校教育は平等を大切にする教育を進めている。もちろん、差別などはなくなったが、皆が同じようになることが優先され個性がなくなった。皆が同じであることが優先されるため、失敗を恐れずチャレンジする人は減り、個性的な人が仲間外れになるということが起こるようになった。このような問題点が見られるようになったと言える。
まとめ
このような問題は「考え方」と「書き方」を学ぶことが大切です。
今回は「比べる」とは何かを扱いましたが、このような「思考の方法」はいくつかあります。
それを知っていれば、考えを進めることができます。
また、書くときも、抽象的なことだけを書く場合と具体例を入れる場合と違いを判断することが大切です。